大阪地方裁判所 平成7年(わ)862号 判決 1995年11月20日
裁判所書記官
牧之内葉子
本籍
大阪府茨木市北春日丘一丁目八番
住居
大阪府茨木市北春日丘一丁目八番一九号
会社役員
竹内哲由紀
昭和二四年一二月九日生
右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官室田源太郎出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年二月及び罰金九〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、タオルの箱詰め、不動産の仲介並びに売買等を営む村田紙器株式会社(本店所在地は大阪府吹田市山田東一丁目一九番二七号、昭和五七年八月一八日より資本の額は四〇〇万円、平成六年一一月二一日解散)の代表取締役(同日以降は清算人)として同社の業務全般を統括していた村田敏の依頼を受け、同社の法人税確定申告手続に関与したものであるが、右村田の依頼を受けて右確定申告手続に関与した鈴木彰、岡澤宏及び平井龍介並びに右村田と共謀の上、同社の業務に関し、法人税を免れようと考え、別紙(一)修正損益計算書記載のとおり、平成六年一月一日から同年一一月二一日までの事業年度のおける実際の所得金額が八億〇三九八万九〇五二円で、これに対する法人税額が三億〇〇四九万六一〇〇円であった(別紙(二)税額計算書参照)にもかかわらず、固定資産売却益の一部を除外するなどの行為により、その所得を秘匿した上、同年一二月一九日、同市片山町三丁目一六番二二号所在の所轄吹田税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が〇円で、これに対する法人税額が〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書(平成六年一月一日から同年一一月二一日までの事業年度分の解散申告書)を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税三億〇〇四九万六一〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
(注) 括弧内の漢数字は証拠等関係カード検察官請求分記載の証拠番号を示す。
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官調書〔一八〇ないし一八四〕
一 分離前の相被告人村田敏、同鈴木彰、同岡澤宏及び同平井龍介の当公判廷における供述
一 村田敏の被告人供述調書〔二二五〕
一 村田敏〔一六九ないし一七四、一七六〕、鈴木彰〔一八八ないし一九〇〕、岡澤宏〔一九一ないし一九三〕、平井龍介〔一九四、一九五、一九七〕、三輪道次郎〔一五八〕、村田隆市〔一五九〕、村田長太郎〔一六〇、一六一〕、中山賀壽代〔一六二〕、藤原田鶴子〔一六三〕、池上徹〔一六四〕、及び汐崎和志〔一六五〕の検察官調書
一 査察官調査書〔一四三ないし一五七〕
一 証明書〔一三九〕
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔一四〇〕
一 商業登記簿謄本〔一四一〕
一 土地登記簿謄本〔一四二〕
(法令の適用)
被告人の判示所為は、平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑の併科を選択し、かつ、情状により同条二項を適用して右の罰金の額はその免れた法人税の額に相当する金額以下とすることとし、その所定刑期及びその金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金九〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、旧刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法人税二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、村田と旧知の間柄にあった被告人が、村田、鈴木及び岡澤並びに当時税理士であった平井と共謀の上、村田の経営する村田紙器株式会社の平成六年一一月期の法人税確定申告手続に関与して、三億円余りもの高額の法人税の全額を脱税したものであって、ほ脱率は一〇〇パーセントであり、納税義務に著しく反する重大事案である。
そこで、被告人の関与の態様についてみると、本件脱税の方法は、村田紙器が売却した土地につき、鈴木及び岡澤がそれぞれ四分の一ずつの持分を有するかのように仮装し、その旨の内容虚偽の和解調書を作成することによって、六億円の固定資産売却益を除外し、さらに、二億八〇〇〇万円の架空の貸倒損失を計上する方法により敢行されたものであるところ、被告人は、他から売却の斡旋を依頼されていたマンション二棟を村田に購入させて、その仲介手数料を取得したいとの思惑から、右土地売却に伴う高額の課税を心配する村田に対して、鈴木及び岡澤を紹介して脱税工作を依頼し、その後も、村田と右両名との間の連絡役を務めたのみならず、村田が鈴木や岡澤との間で本件脱税の金額や方法について話し合った際や、右和解調書作成に関して司法書士事務所や裁判所に赴いた際には、村田に同行して相談に加わり、その一方、本件脱税工作に伴って発生した裏金六億円を管理し、また、村田が本件脱税によって購入した右マンション二棟の登記について被告人の経営する会社の名義を村田に貸した上、それに伴う家賃収入の管理などを行うなど、脱税によって得た裏金の資産隠しに積極的に加担し、その結果、前記の方法により、法人税全額をほ脱するに至ったものであって、以上からすれば、被告人は、本件脱税に積極的に関与し、また、重要な役割を果たしたものと評価することができる。
さらに、被告人は、本件脱税報酬として鈴木及び岡澤から合計六〇〇万円を受け取り、そのほか、右マンション二棟の購入代金として村田から受け取った三億九〇〇万円と、実際の購入代金及び所有権移転登記手続費用の合計約三億八一五〇万円の差額約八五〇万円を自己の使途に費消したのであって、結局、本件脱税に関与したことにより合計約一四五〇万円を利得しており、悪質である。なお、被告人は、当公判廷において、右八五〇万円は右マンション二棟の固定資産税等のために預かっていたものである旨供述するが、被告人は、右金額を既に費消してしまったのであって、預かり金であるとは認められず、脱税による利得であると言わざるを得ない。また、検察官は、論告において、右約一四五〇万円のほか、被告人が右マンション二棟の売買を仲介したことによって得た手数料一一四〇万円についても脱税利得である旨主張するが、右金額は右マンション二棟の売買代金三億八〇〇〇万円の三パーセントに当たり、被告人は右売買を仲介したことによる正規の仲介手数料であると認められ、本件脱税による直接の利得であるとは認められない。
以上のとおり、本件脱税の規模、態様や被告人の関与及び利得の状況からすれば、被告人の刑事責任は重大である。
ところで、本件脱税に関して、村田は修正申告を行い、ほ脱額全額について納付を完了している。さらに、被告人に有利な事情として、被告人は事実を素直に認め、反省していること、本件脱税の方法は専ら鈴木の提案にかかるものであり、ほ脱の決定も鈴木及び岡澤においてなされていたこと、被告人の母が病弱であり、また、被告人の婚約者が当公判廷において今後の監督を約束していることなどの事情も認められる。
そこで、以上の事情を総合して考慮の上、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑についてはその執行を猶予するを相当と思料する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 松下潔 裁判官 増田啓祐)
別紙(一)
修正損益計算書
<省略>
別紙(二)
税額計算書
<省略>